「事業承継」と「株式承継」の違いを知ろう
2015/09/14
会計事務所は、後継者が不在で事業承継が課題となっている中小企業の顧問先を多く抱えています。では、ひとくちに「事業承継対策」といっても、何をすればいいのか。
今回は公認会計士・税理士・中小企業診断士の金井義家氏が、事業承継コンサルティングを行う上で理解しておきたい「事業承継」と「株式承継」の違いについて解説します。
「株式承継コンサル」は会計人の得意分野!
皆さんは「事業承継コンサルティング」というと、どういったものを思い浮かべますか。一例として、以下のようにいろいろあるでしょう。
●オーナーの相続税の試算
●相続の際、後継者にきちんと自社株式がいくように遺言書を書く
●後継者が優れた社長になるよう育成する
今、挙げたなかでも「事業承継コンサルティング」と「株式承継コンサル」が混在しています。ここで私が言いたいのは、これら2つを明確に区別していただきたいということです。多くの場合、これら2つが混同しています。
株式承継問題は優良企業のぜいたくな悩み
「事業承継」とは、次の社長を誰にするかということ。以下の4類型があります。
[事業承継の4類型]
(1) 親族内承継…推定相続人(配偶者、子、孫等)への承継
(2) 親族外承継…(1)(3)(4)以外(おい・めいなど相続人以外への親族の承継、従業員など社内関係者への承継、取引先、金融機関など外部からの招へい)
(3) M&A
(4) 廃業
一方、「株式承継」は、オーナーの個人財産としての株式をどうするかということです。両社は相互に影響し合っています。そして、事業承継対策の一部が株式承継対策とも解釈できます。
事業承継と株式承継の最も大きな違いは次にあります。
事業承継は、次期社長を誰にするかということなので、すべての会社に共通する問題です。どんなに優秀な会社経営者でも年齢を重ねて相続が発生します。すると、次の社長を選ばなければいけません。100社中100社が事業承継問題を抱えているのです。
一方、株式承継はオーナーの個人財産という問題。典型的な例としては相続税の問題について、多くの人が思い浮かべると思われます。あるいは株式を含めた遺産分割について、親族間で争いになることも想定されます。いわゆる「争族」の問題ですね。こういったものがあると思います。
このような問題が起きるのは、株式の評価額が高いからです。非上場株式に価値がなければ、相続税が課税されることがなく、それをめぐって争いが起こることもありません。株式の価値が高いからこそ、相続税の支払いに困ったり、親族間で争いが発生するのです。
つまり、この株式承継の問題というのは、株式の価値が非常に高い一部の優良企業に限定された問題といえます。
「素晴らしい会社をつくってしまった」という経営者のぜいたくな悩みでもあるのです。
「次の社長を誰にするか」は会計人では難しい
「次の社長を誰にするか」「どうやったら次期社長を育成できるか」というような事業承継のコンサルティングは、なかなか難しいです。こうした課題は会計事務所や法律事務所でも悩んでいることで、われわれでは解決できません。
一方、株式承継問題は税法や法律、資金調達など、専門的な知識やノウハウを活用しやすいでしょう。公認会計士や税理士の得意分野でもあり、コンサルティングが可能です。
そうしたことから、ある程度、事業承継に関する課題を解決した会社に株式承継コンサルティングを実践するのが現実的といえます。
なお、考えられる主な株式承継対策は以下3つです。
[考えられる主な株式承継対策]
(1) 贈与…株式を後継者に無償であげる
(2) 譲渡…株式を後継者に時価で売る
(3) 相続(遺贈)…現経営者の死亡により、相続(遺贈)される
(3)の相続(遺贈)は基本的に無策ということなので、実質的には「贈与」か「譲渡」になります。どちらを選ぶかで、相続税や贈与税の金額が大きく変わってきます。
金井義家氏
1973年生まれ。96年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。同年株式会社北海道拓殖銀行入行。98年東京都入都。99年中小企業診断士登録。2003年新日本監査法人入社。07年公認会計士登録。09年税理士法人タクトコンサルティング入社。同年税理士登録。11年株式会社三井住友銀行プライベートアドバイザリー部出向。12年株式会社野村證券出向。14年株式会社K’sプライベートコンサルティング代表取締役就任