税理士ができる、遺言書の作成と遺言執行業務とは
2015/09/04
遺言書を積極活用し、相続対策を万全にしよう
「遺言書の作成は弁護士や信託銀行に任せるもので税理士には関係ない」
こんな風に思い込んでいませんか?
しかし、遺言書作成においては相続税を念頭に置かないと必ずトラブルの原因になります。税理士が遺言執行業務にどこまでかかわれるかを把握しておくことが必要です。
今回は相続のエキスパートで遺言執行業務を積極的に展開している深代勝美公認会計士・税理士が、税理士ができる遺言書の作成と遺言執行業務について解説します。
遺言執行人となれるか?
遺言執行者は、遺言で指定されたもので、特別な能力や資格は必要ありません。
よく「弁護士や信託銀行じゃないと、遺言執行人になれないのでは?」と勘違いされる方がいらっしゃいますが、税理士も遺言執行人になれます。なぜなら、最近でいうところの法定後見人や任意後見人が選定されて実行されてというような、意思能力がない方でない限りは誰でも遺言執行人になれるからです。
遺言執行者は相続人の代理人となり、相続財産の管理その他遺言に必要な一切の行為をする権利義務があります。しかも、相続人であっても、その執行を妨げることはできません。絶対的な権限があります。したがって、税理士に遺言執行の能力があれば、遺言執行人となることで、遺言内容をスムーズに進められると考えます。
遺言書の作成業務はできるか?
遺言書の作成業務は具体的にどんなことをするのかというと、公正証書遺言と自筆証書遺言の2通りあります。
1.公正証書遺言の作成 公正証書遺言は公証人が作成するのであって、税理士はそのためのお手伝い、つまりアドバイスをするだけです。遺言書を作成するわけではないので、他士業の法律業務に違反することはまったくありません。
具体的には、公証人に遺言者の意思を伝えるため、遺言者から不動産登記簿謄本や預金の残高証明書などを預かり、遺言者の分割希望や税務上の有利な分割方法などを検討した遺言の原案を作成します。遺言者の了解が取れたら、公証人に文案のFAXを送付。公証人が原案を確認して公正証書遺言の文案をあらかじめ作成します。
公証人は後日、証人2人の立ち会いのもと、遺言者に遺言内容が本人の意思で作成されたことを確認して、正式な公正証書遺言とします。公正証書遺言の作成当日になって、原案と違う内容に変更しても構いません。
2.自筆証書遺言の場合 自筆証書遺言は遺言者がその全文を自署して、日時、指名を自署し、押印することが必要です。よって、税理士の業務はアドバイスしかできません。実際作成していないので、法律違反にもなりません。
遺言書の検認など家庭裁判所の手続き
自筆証書遺言の場合、検認は誰がやるのか、というご質問が多いのですが、遺言書の検認に必要な家庭裁判所の手続きは、民法104条にしたがって、遺言書の保管者や発見者がすることになっています。よって、遺言書の保管者が税理士であれば、税理士自らが検認の申し立てをしなければなりません。税理士が自筆証書遺言に対してのアドバイスをした場合は、遺言書を預かることが多いのでは、と思います。
また、保管者が相続人であっても、税理士が家庭裁判所に同行して、本人申請の手伝いをすることは、円満な相続の解決のために必要な行為です。弁護士法や行政書士法に違反する事項ではありません。
深代勝美公認会計士・税理士
税理士法人深代会計事務所代表社員。1954年群馬県生まれ。東洋大学経営学部卒業。85年深代会計事務所開業。事業承継、相続税、土地評価等に強みを発揮。不動産の有効活用や法人利用による節税など、さまざまな角度からの新鮮な視点で効果的な税務対策を追究。講演活動も活発で、わかりやすく軽快な解説が好評を博している。
税理士業界ニュース 第11号(2011年6月号)より