税務調査における税理士の役割とスタンス
2015/09/09
秋は税務調査のシーズン。税務調査は税理士にとってクライアントから評価されやすいポイントです。税務調査にていろんな事実を条文等に適用し、解釈して論理的に結論を出すことができるのは税理士だけ。税務調査で税理士は価値を上げることができるのです。
今回は税務調査専門税理士の渡邊勝也氏が「税務調査における税理士の役割とスタンス」について解説します。
税理士の価値を高めるチャンス!
税務調査で税理士はどういう役割を果たさなければいけないか。また、どういう能力を発揮しなければいけないか。本質的な部分を解説したいと思います。
税務調査における税理士の役割として、納税者が支払う金額を下げるよう交渉したりなどいろいろあるでしょう。しかし、それは本質ではありません。
税理士の役割は、納税者と税務調査官の双方に納得感と安心感を与えることだと、私は考えています。そのために高度な対応力が必要です。対応力を高めるには、法律論と交渉力が求められます。
ご存知の通り、日本は租税法律主義なので、法律で課税が決まります。一方、交際費等の事実認定においては現場で判断するグレーな部分が多いです。そのためどういう風に交渉していくかを考えなければなりません。交渉だからといって、相手を追い込んでいくのではなく、お互いが満足して納得できるように進めていくのが税理士の役目です。いわばファシリテーターのような役割といってもいいでしょう。
税務調査では、納税者と一緒に税務調査官と対立し闘うのではなく、税務調査と納税者を俯瞰できる高い視点で税務調査対応をすることが最終的に納税者の利益につながります。
経営者の「4つの不安」調査官の「3つの不安」
税務調査では、経営者は4つの不安に襲われます。
1.脱税が見つかる不安
2.納税額が払えない不安
3.逮捕される不安
4.税務調査が長引く不安
特に中小企業の経営者はそもそも法律(税法)に詳しくありません。社内で第一線のプレーヤーでもあるので、調査が長引くと売上が減る不安に陥ります。
一方、税務調査に対して調査官も3つの不安を抱きます。
1.きちんと協力してくれない不安
2.増差が見つからない不安
3.税務調査が長引く不安
調査が数ヵ月も長引くと、税務署長や統括官に説明しなければいけません。ノルマもあり、上長に詳細をきちんと報告しなければいけません。
こういった、経営者と調査官双方の不安を踏まえて、税務調査の立ち会いをしていただければと思います。
ここでお気づきだと思いますが、経営者と調査官に共通した不安として挙がっているのは、税務調査が長引くことなのです。よって、税務調査の目的のひとつを、早く終わらせることにすると、経営者と調査官のどちらにも安心感と納得感を与えられます。
「早く終わらせる」という目標に向かって調査を進めていくのが税理士の役目ではないかと、私は考えています。
また、実調率の低い税務調査の現状で、一つひとつの税務調査が短時間で終わることは、実調率を高め、課税の公平の視点からも社会的意義のあることだと思っております。
税務調査は税理士にとってクライアントから評価されやすいポイントです。今や記帳や税務申告の業務は価格競争の渦中にあり、一般消費財のような扱いを受けています。しかし、税務調査にていろんな事実を条文等に適用し、解釈して論理的に結論を出すことができるのは税理士だけです。税理士は税務調査で価値を高めることができるのです。それゆえ、税務調査は税理士にとって大きなビジネスチャンスだと、私は思っています。
渡邊勝也氏
1973年生まれ。96年中央大学文学部社会学部卒。96年学生援護会(現インテリジェンス)に入社。2010年早稲田大学大学院(税務訴訟補佐人講座)受講。10年TAX GYM 渡邊勝也会計事務所設立、代表税理士就任。12年税理士法人TAXGYMに組織変更。法人会、青色申告会の講師や「税務調査百戦錬磨」の税理士として、その活躍は税理士業界でも有名。