事業の「譲渡」か? 「清算」か?判断ポイントはどこにある?
2015/09/07
赤字続きで苦しむ顧問先の「ベストな出口」を見つけよう
長引く不景気の影響から「赤字続きで苦しんでいる顧問先をどう救うか」は、会計人の使命のひとつです。解決策を考えたときに「株式の売却」「事業の譲渡」「清算」という3つの方法があります。しかし、それぞれを選択する際の判断ポイントはどこにあるのか。
今回は鴛海量明公認会計士・税理士が、事業の「譲渡」と「清算」の判断ポイントについて解説します。
事業の譲渡を考えたほうがよい場合とは?
赤字続きで苦しむ企業の「ベストな出口」を考える際、事業の譲渡か清算か、選択肢が存在します。実はそれぞれにチェックポイントがあるのです。
次のような場合は、事業の譲渡を考えたほうがよいでしょう。
●後継者がいない。親族(主として子供)に候補者はいるが適性がない、あるいはやる気がない
●社長が高齢である。または健康に不安がある
●創業者の死去により、暫定的に親族が経営者となっている。あるいは、番頭格が実質的に経営を取り仕切っている
●業界内のパイが縮小している構造不況業種
●業界が規制緩和の対象となった
息子等の親族がいたとしても、後継者が実質的に存在しない場合があります。例えば息子さんが大手企業に勤めていて、そこそこの地位にいると、今さら父親の企業の後を継ぐことは難しいでしょう。
また、息子さんがすでに父親が経営している会社に勤めているけれども、どうもリーダーシップに欠けるというように、社長の適性がないケースは少なくありません。このような場合は事業の譲渡を検討したほうがよいでしょう。
構造不況業種や規制緩和の対象となる業種は、将来、競合激化が予想されます。なので、会社がいい状態のうちに事業の譲渡を行うことをおすすめします。業績が悪くなってから譲渡となると、安値で買い叩かれてしまう危険性があるからです。早目に検討するに越したことはありません。
事業を清算せざるを得ない場合とは?
次のような場合は、事業を清算せざるを得ないでしょう。
●仮に経営改善を行ったとしても、営業キャッシュ・フローがマイナスであり、事業の存続価値がない
●事業の内容が、社長の個人的資質に大きく依存しており、他人に引き継げる内容ではない
●営業キャッシュ・フローはマイナスではないが、事業に魅力がなく、引き継いでくれる人(会社)がいない
ご存知の通り、営業キャッシュ・フローとは本業で得られるキャッシュ・フローのこと。ここがマイナスの状態が続くと、企業の存続可能性が危ぶまれます。
正確にはキャッシュ・フロー計算書を作成して判断しますが、簡便的には当期純利益+減価償却費(非資金費用)で、だいたいの営業キャッシュ・フローが把握できます。ここの数字が慢性的にマイナスという会社は、存続価値がないに等しいので、清算せざるを得ないでしょう。
また、社長の個人的資質に大きく依存している会社は、社長がいなくなると直ちに存続が危ぶまれます。事業に魅力があれば、他者(他社)に引き継げますが、魅力に乏しい場合は、清算を検討したほうがよいでしょう。
鴛海量明公認会計士・税理士
税理士法人おしうみ総合会計事務所代表社員。1965年生まれ。東京大学経済学部経営学科卒業後、監査法人朝日新和会計社(現:あずさ監査法人)入所。93年公認会計士登録。96年税理士登録。99年優成監査法人社員就任。2000年おしうみ総合会計事務所を設立。優成監査法人代表社員就任。2010年税理士法人おしうみ総合会計事務所を設立。代表社員に就任。主な著書に『倒産法全書 下』(商事法務・共著)、『M&A 事業再生用語辞典』(日経BP社・共著)、『連結ディスクロージャーの実務』(日本法令・共著)等がある。